ペットの食事と仕事 豆知識

愛犬の健康と暮らしをトータルで捉えるホリスティックケアにおいて、「食事」と「行動・心理」は切っても切れない関係にあります。
今回は、当講座の姉妹講座:ホリスティックケア・カウンセラー養成講座の講師であり、獣医行動診療科認定医でもある藤井仁美先生が、ペットフーディストの修了生向けサービスの1つである『会報誌』に執筆された特別記事をご紹介します。
テーマは、現場でご相談の多い「食事中の攻撃行動(食物関連性攻撃行動)」です。
単なる食事のアドバイスにとどまらず、行動学の知識や専門医との連携視点が加わることで、どのように課題を紐解いていけるのか。講座で得られる一歩深掘りしたサポートの考え方をぜひご覧ください。
はじめに
「うちの子は怖がりなのか、よく吠える」
「ストレスを感じると、便がゆるくなりやすい」
ペットオーナーからこのような性格や心、行動面などのご相談を受けた時、アドバイスが難しいと感じたことはありませんか?
実は、食事(腸)と行動(脳)は切っても切り離せない関係にあります。 今回は、獣医行動診療科認定医が、行動診療でペットオーナー(以下、オーナー)からよくある犬の相談事例を取り上げ、ホリスティックケア・カウンセラーやペットフーディストが一般診療や行動診療を行う獣医師とどう連携するのが理想的かを述べていきます。これらの食事関連の行動問題は犬の精神的ストレスが関与していることがほとんどで、治療だけでなく適切な予防や初期対応をすれば悪化が防げるものばかりですので、ぜひ参考にしてください。
【ケース】食事を守って攻撃的になる:食物関連性攻撃行動の考え方と対応法
食事中にオーナーが犬に近づいたり食器に触ったりすると、犬が激しく怒って攻撃してくる場合があります。
そもそも犬は生存するために大切な食べ物を取られまいとする本能を持っています。ですから食べ物を守ること自体は、犬にとって正常な行動です。しかしそれが「攻撃行動」にまで発展してしまう理由は「犬の気質」に加えて、以下のような「人間側の環境づくりや不適切な関わり方」が複雑に絡み合っています。
●気質:生まれつき様々なことに恐怖や不安を覚えやすい気質がある
●離乳期の給餌環境: 離乳後すぐに、兄弟犬たちと争うように1つの食器から食事を与えられていた経験がある
●トレーニング不足: 食事を与えられる時に、興奮せず落ち着いていられるようなトレーニングを受けていない
●不適切な関わり方: 食事中に近づかれたり、食器に手を添えられたりして、邪魔や嫌がらせをされた経験がある
●不条理な没収: 食器を無理やり取り上げられることを繰り返された
●抵抗に対する罰: 食器に近づかれた際に唸るなどして抵抗したため、叱責されたり体罰を与えられたりした
さらに、犬が攻撃的になると、オーナーは食器から手を離したり、犬からいったん離れたりする反応をします。この反応によって、犬は「攻撃すれば守れる」と学習し、これらの繰り返しによって、攻撃行動はより強化されていきます。
だからといって、攻撃的な犬により強い態度で対抗すると、犬に多大なストレスを与える結果となり、攻撃行動は改善しないばかりか、どんどん悪化してオーナーと犬の関係が壊れて修復不可能になることも少なくありません。
行動診療では、それぞれの犬がなぜ攻撃行動を起こすようになったのかという理由をきちんと分析し診断して、適切な治療プログラムをオーナーと一緒に考えていきます。
まずは、これ以上攻撃行動を悪化させないことが最優先となりますので、次のような対応を提案することが多いです。
● 食べている間は犬に決して近づかない
● 人が動くだけでも攻撃してきて危険ならば、ケージやサークル内または別室で食事を与える
● 食べ終えたとしてもすぐに食器を取り上げないでしばらく放置する
● 食後に機嫌がよさそうなら外に連れ出したり遊んだりして食事へのこだわりを忘れさせる(ただし消化のためには興奮させ過ぎないことも大切)
● 食器の存在を忘れた頃に、犬に悟られないようにそっと食器を回収する
これらの提案はペットフーディストやホリスティックケア・カウンセラーなどの職種の方が相談された場合でも提案ができるのではないかと思います。
さらに行動診療では、このような対応を継続していただきつつ、各ケースに最適な治療法を提案します。例えば攻撃したいという衝動を和らげ、犬の気持ちや行動を変化させるための行動修正法を指導したり、あまりに攻撃性や衝動性が高い場合は薬物療法を実施したりすることもあります。
また、こういった攻撃行動が発生しないためには「問題が起こっていない」子犬の時期からしつけをして予防することが大切です。しつけの方法はいろいろあり、その犬に適した方法を選ぶ必要がありますが、一般的に子犬の時期であれば次の方法でしつけることが可能です。子犬の食事相談を受けた際に、ペットフーディストがこれらの方法をオーナーに提案できると、問題を予防できる可能性が高いです。
トレーニング例:

①まずは犬に「オスワリ」の動作を覚えるようにトレーニングします。ひと粒のドライフードまたはオヤツを指の間に挟み犬の鼻先につけ匂いを嗅がせ、その手を少しずつ上にあげ犬の頭が上を向くようにします。頭が上を向くとお尻が床につくので、その瞬間に「イイコ」とひとこと言ってから持っているフードを与えます。コマンドはまだ言う必要はありません。これを繰り返すことでフードの匂いを嗅いだら犬が自発的にオスワリするように学習させます。

②オスワリを学習したら、食事の度にまずは空の食器を置くようにします。そして①を食器がある状態で繰り返しますが、今回は手からフードを与えるのではなく、犬が座ったら食器にフードをひと粒ずつ入れてあげます。犬がオスワリするたびに、座ったことへのご褒美として少量のフードを食器に入れて食べさせ、空になったらフードを見せてオスワリさせるというのを繰り返します。

③これを毎日続ければ、子犬は食器を見ると友好的にオスワリするようになります。この時点でフードを見せるタイミングで「オスワリ」と指示を言って、指示と動作を関連づけて学習させていきます。
子犬が家に来た時からこの方法で学習させれば、犬は空の容器にフードを入れてもらうためには静かに座ることを覚えますし、フードの入った食器を守って攻撃行動を起こす可能性も減らせます。
▼トレーニング例解説動画
ただ、もし家に来た時点で食事や食器を見せると攻撃性や興奮性が高く、この方法でしつけられそうにない場合は、ドッグトレーナーや行動診療を勧めるべきです。ただしこの場合、くれぐれも罰や強制を使わない専門家を紹介してください。どのような方法で教えているかを事前にチェックするとともに、教えている間も進行度を確認できることが理想的です。
特に意識すべきなのは、獣医師免許を持っていない方は、法律上「診断」や「治療」といった行為を行えないという点です。 もし、オーナーと話す中で行動学的視点からのアドバイスや介入が必要だと判断した場合は、専門の「行動診療」の受診をオーナー様に促すのが賢明であり、正しいあり方です。
「自分には診断や治療ができない」とがっかりしたり、残念に思ったりする必要はありません。オーナーの深い悩みを引き出し、専門医療へと繋ぐ「心強い架け橋」になれるのは、日頃から信頼関係を築いているペットのプロだからこそできることです。獣医師としっかり連携しながら、これからもオーナーと犬たちの幸せな毎日に優しく寄り添っていきましょう。

